自動車教習における卒業検定の苦難

2007-08-08

自動車を運転するには免許を取得しなければならない。
多くの人は、そのために教習所に通って30時間以上の教習を受け、
教習所を卒業してから免許センターに行く。
それは僕も例外ではなかった。
僕は7月の頭に、通っていた自動車教習所を卒業した。


教習所には3月の中ごろに入った。早い人では1ヶ月から2ヶ月で
卒業するので、僕は人よりも長い時間をかけて教習所に通ったことになる。
まあもともと夏休みに免許センターに行くつもりだったので
敢えて急がずに時間を空けて通った。


教習所では、各教習で問題があると(つまり運転が下手だと)
もう一度その教習をやり直さなければならない。
また当然だが、教習の途中と最後にある検定も、
運転技術が一定水準に満たなければ合格できない。
すなわち、飲み込みの遅い人ほど多くの時間と金を浪費するわけだ。


僕はそんなに要領が良い方ではないので2時間ほどオーバーしたが、
それも最初のうちだけで特に大きな問題ではなかった。
路上に出る前の修了検定もごく普通にパスしたし、
最後の見極めも、学校のテスト明けで1ヶ月ぶりに車に乗ったのだが、
ちゃんとOKをもらえた。


ところが僕は最後の卒業検定に落ちた。


これは僕にとって非常にショックな出来事だった。
とは言うのも、僕のまわりでは教習所の卒検などは、
(特に男子は)受かって当たり前といった感覚だったからだ。
実際、友人達には 「え!? 教習所の卒検で落ちたの!?」 と驚かれた。
そりゃそうだ。
僕自身、落ちるなんて思っていなかったし、
ちゃんと前日には自由練習に行ったりして
予習復習もして準備万全の状態だったのだ。


場所や時期などにもよるが、大体自動車教習の卒業検定の
合格率は8割程度はあるらしい。
落ちる人間は大体、もともと運転が苦手なタイプの人か、
運悪く致命的なミスを犯してしまった人に分けられる。


僕は別に自分の運転が極端に下手だなんて思っていないが、
検定の当日、自分でも考えられないような奇妙なミスを犯したのだ。


これから教習所に通おうとする人達に、
人は時として不可解な行動をとりうる
ということを教えるためにも、
僕はその失敗の全てをここに記そうと思う。

未来ある若者達の、何かの参考になれば幸いである。

~ 卒業検定の失敗例 ~
(千葉県在住 TKさんのケース)


卒業検定の内容は日本全国で統一されているらしい。
卒検用のコースを示された道順で走り、
最後に目的地まで自主経路を立てて走る。
それにプラスして方向変換や縦列駐車などをやるのだ。


方向変換も縦列駐車も、教習で何度も繰り返して練習していたので、
全く問題は無かった。コースの走行もそれなりに安全運転できたと思う。
僕がミスを犯したのは、自主経路を立てて目的地まで走行するパートである。


自主経路では、ゴールまでの道のりを地図を見て自分で考え、
それを記憶して走る。僕は運転中に迷わないように道順を頭の中で
反芻しながら、ゴールに向かって運転をしていた。
やはり試験となると緊張するし、絶対に落ちたくないので、
歩行者との距離のこととか、安全確認のこととか、
検定に落ちないための要素を常に頭の中に置いて処理していた。


コースも終盤に差し掛かり、
「あと右折して信号ちょっといったら終わり」
というところまで来た。この時点で僕は
「この検定、もらったぜ!!」という気持ちで満たされた。
俺は検定に受かる。自信が確信へと変わろうとする瞬間だった。


ところが次の瞬間、助手席に座ってそれまでずっと押し黙っていた
(ちょっと怖そうな感じの)教官が、突然声を出したのだ。


それまで車内をつつんでいた静寂が、唐突に破られる。
それはたった一言、こんな言葉だった。

「右じゃねぇ」

僕には理解ができなかった。
何を言われたのかが分からなかった。
しかしいきなりそんなことを言われたからには、
何か僕に問題があるのだろうと瞬間的に感じた。
それゆえ、僕の思考回路は一瞬にしてビジー状態に陥った。


この時僕は、先にあるT字路を右折しようとしていた。
今まさに、右への方向指示を出すところだった。


結論から言うと、この教官の「右じゃねぇ」は、
「次曲がるの右ですよ、わかってますよね?」
といったニュアンスの、補佐的な一言だったのだ。
教官は自主経路の時にそういう言葉を言ってよいことになっているらしい。
つまり僕は何も間違っていなかった。


ところが僕の頭の中では、教官が自主経路の時にサポートをする
なんていう可能性は、根本的に排除されていた。
「検定中は、教官は指示になることを言えない」みたいな
説明を受けていたこともあって、教官が何か言うということ自体が
僕にとってイレギュラーな出来事だったのだ。

っていうかそもそも、自主経路の時に経路のサポートをしたら、
それはもはや自主経路でなくなってしまうのではないか?



またこの教官も、「右じゃねぇ」という言葉を
「右じゃねぇ?」 とも 「右じゃねぇよ」 とも
とれる 絶妙なイントネーション で発音したため、
さらに僕を惑わせる結果となった。
僕は短い時間の間に考えられるだけのことを考えた。



くそ… なんだ、一体なんだってんだ。
これまでの俺の運転に致命的な問題は無かったはずだ…
自主経路だってこの先のT字路を右折で間違いなかったはずだ…
しかし俺に何か問題があるというのか…?
検定中に「何がいけないんだ?」なんて教官に聞くことはできない…
考えるんだ… そして絶対に動揺せず、間違いを犯す前に
冷静に対処するんだ… 大丈夫だ…
これまで英検だって漢検だって、検定と名のつくものは
全部パスして来たじゃないか… 俺ならやれる… 俺なら…



そうこうしているうちにもう車が結構進んでしまった…
もう右への方向指示も出してしまった…
何だ… どうしたらいい…? 「右じゃねぇ」って何だ…?
一体この教官は何が言いたいんだ…?
右がいけないのか…?
それとも何かを右にしなければいけないのか…?
くそ… 動揺したらダメだ… 動揺したら人間は冷静な判断を下せなくなる…



ああ、動き出す俺の脳細胞… 発火するニューロン…
早く俺を答えに導いてくれ… そう言えば神経細胞のイオン伝達って
わずか100ステップ単位で物事を処理しているらしいな…
脳ってすごいな… すごい仕組みだな…
そういや、卒検じゃなくて学校の卒研も頑張らないとな…
あー、今日の晩ごはん何かな…

と、極限状態で色々考えた結果、
僕はどういった行動を
とったかというと、


こういった道を





こう進みました。


た、対向車線に向かって進路変更してるーー!!

いやー、なんか田んぼの中にある広い道で、
対向車とかも一切居なくて、
道幅も広くなってたことも影響してか、

「右じゃねぇ?」と言われた次の瞬間、
その場で右に曲がって進み始めた自分。

なんだかんだでめっちゃ動揺してるし、
どんだけガラスのハートなの俺。


次の瞬間僕も「あれ、俺おかしいことしてる」
ってことに気づき、びっくりしてすぐにハンドルを戻し
対向車線までは入らなかったんですが、
まあ何て言うか俺以上に教官もびっくりして、
「え、お前急に何やってんの!?」
と、とっさに補助ブレーキを踏みました。
まあ俺が教官でも間違いなくブレーキ踏んだと思いますが。


それまで順調に問題なく走っていたのに、
教官が喋った瞬間右に大きく揺れる教習車。
誰もいない田舎の広い道の真ん中でブレーキをかけられ、
エンストして止まる車。

あまりの出来事に、
俺も教官も唖然。


「え… お前突然、どうしたの…?」
「いや… だって急に右とか言うから…」


「いや、次曲がるの右って意味だったんだけど…」
「なんだ… 親切で言ってくれたんですか…
 その不用意な優しさが、どれだけ俺を傷つけると
 思ってるんですか…


「………」
「………」


「え、これ俺、どうしたらいいんスか…?」
「いやまぁ… アレだよ、検定中止だ…」


「………」
「………」


え、ええーーーッ!?
ままま、マジでもう終わり!?

「いや、違うんスよコレ、そうじゃないんですよ!!」
慌てる俺。弁解の言葉も見つからない。


「うんまあ、可哀想だけどな…」
ちょっと同情の念がこもっている教官の言葉がまた辛い。


「いや、でもアレだし!! 今貴方が何も言わなかったら
 俺絶対うまくいってたし!!」

「はい、じゃあ後ろに座って。」


何を言おうと、後の祭りだった。
そもそも、検定の決まりで「教官の補助ブレーキ」
踏んだ時点で検定が終了するという即死スキルに設定されている。

っていうかそれ以前に、「車体の幅半分を越えての車体のふらつき」
が即死項目になっていた。 どっちにしろ完全にもう死んでいる俺。

くそ… この俺が… この俺が教習所の卒検で落ちるなんて…
ちくしょう、この出来事は俺の歴史に一生消えない傷として刻まれたぜ…
これから一生俺は、「卒検に落ちた男」として、
友人とドライブに行ったりした時に、
「なぁ小山小山、…右じゃねぇ?
とか言われてイジられ続けるんだ、そうに違いないんだ…!!

検定に落ちると補習をやってから検定を受けなおさなければ
ならないので、それだけ時間と金を消費することになった。
まあこういう苦い思いも、良い人生経験であると思いたい。
ちなみに余談だが、僕が卒研に受かった時の合格率は、
12人くらい居て8人ほどだった。
3分の1が落ちたと考えると、結構侮れない。

そして不合格になったらしい女性が、友人に
「だっていきなり教官が喋るから混乱しちゃって…」
などと言っていた。僕と同じような状況だったのか。
教官もちょっと指示の出し方を見直した方が良いのでは。

まあ車の運転は命がかかってるから、
ちょっとした事で冷静さを失わない精神力
をテストするという必要性もあるのだろうけどね。

ところで、2回目を受けたときは流石に普通に受かったのだが、
そこでも ちょっとイレギュラーな出来事 があった。
ここまで書いたので、ついでにそれについても記しておこうと思う。


~ 卒業検定の特殊な事例 ~
(千葉県在住 TKさんのケース)


2回目の検定。同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
っていうか2回目も同じ感じで落ちたら、
僕は悲しすぎてショック死するかもしれない。
何を言われても慌てないよう、心を強く持って臨んだ。


決められたコースを走り、今再び自主経路の開始地点に来た。
前回受けた時とコースは違っていた。
自主経路のコースを走行する際、確認のための地図を渡される。
その地図には、自主経路に沿って赤い線が引いてある。
検定を受ける前に、自分で自分の経路を赤線で描くのだ。


コースを確認し、教官に地図を返す。
そこから自主経路の検定が始まるのだが、
その時何故か、僕を嫌な予感がよぎった。
何故だか分からないが、理由もなく何か嫌な予感がしたのだ。


そして僕は、半ば突発的に教官にこう問いかけていた。

「この地図って、信用してもいいんですか?」


すると動きが止まる教官。
地図を見つめたまま何も喋らなくなってしまった。


一体どうしたのだろう。
僕は何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

「え、僕何か変なこと聞きました…?」

と聞いても、教官はフリーズしたままだ。


10秒以上の時が流れて、ようやく教官が言葉を発した。
僕が地図に引いた赤い線… すなわち僕が立てた経路を
指差して、こう言い放ったのだ。

「この道は、地図で見るよりも狭いですよ?」

いきなり何を言い出すのか。僕の不安を煽るつもりなのか?
それとも、僕に対するアドバイスのつもりなのか。
…さらに驚くべきことに、教官はこう続けた。


「今なら、変えてもいいですよ?」

な、なんだ、それ。


検定前に決めた自主経路を変えてもいいなんて、
そんなケースがありうるのか。


それよりも、何故教官はこのようなことを言ったのだろうか。
何か意味があるハズだが、この前も教官の言葉に惑わされて
僕は失敗したのだ。ここは敢えて自分を貫いてみることにした。

「いや、でももう決めたんで、コレで行きますよ。」

すると教官、


「ここの曲がり角は、意外と距離短くて難しいですよ?」

え、ええ~…?
そんなこと言われても…

そこまでして俺に経路を変えさせたい何かがあるのか。
不可解に思ったが、それでも俺は意志を曲げないことにした。
「…いや、俺は… これで行きます!」


すると再び教官が動かなくなった。
地図を見つめ、黙りこくる教官。
緊迫した空気が張りつめる。

何だ!? 一体何だと言うのだ!?


「じゃあ… 最後に一つだけ言わせてもらうけど…
 君の立てたこの経路を行くとね…」


「工事をしていて、道がなくなってますよ?」




そ、それを先に言えよ!!

じゃあ変えるよ!!
 そういうことなら変えるしかないでしょう!!


いやー、ビックリした。
そんなん地図だけ見たってわからねぇじゃねえか。
道が無くなってるってなんだよ。
道がなかったら変えるしかないじゃないの。

まあそんなことがあったけれども、
何とか無事に検定を終えて教習所を卒業できた俺。
あそこで経路を変えていなかったら、
あそこで教官に質問をしていなかったら、
恐らくもっと面倒なことになっていたのだろうああめんどくさい。




ということで今回は、車の運転はいつ何があるのか
わかったもんじゃないということが学べましたね。

普通に走ってても草むらから子供が飛び出して来たり、
ブレーキが急に利かなくなって前の車に追突したり、
空からUFOが降ってきてフロントガラスに激突したり、
助手席に座ってる人に「右じゃねぇ?」とか言われたり
する確率、ゼロじゃないですからね。


そう考えると、もう怖くて車なんて運転できないですね。
みなさんも車には十分ご注意下さい。