野菜で花束を作ってみる

2006-03-20

3月20日、僕の通う高専の卒業式があった。
多くの5年生の先輩方がこの日を最後に、学校を巣立っていく。

演劇部の先輩にも、5年生が1人居た。
先日の部活の送迎会では200個の風船に埋めた、あの先輩だ。


↑この人

3年間、色々な場面でお世話になった先輩だ。
この晴れの日に、誠意をこめて送ってあげたいと思う。
そこで先輩に渡す花束を買おうと考えた。


しかし僕は思いとどまった。
僕にとっては特別な先輩なのに、
普通に花束を渡すだけでいいのだろうかと。
もっと何か先輩のためにできることがあるのではないかと。


そこでふと思いだす、
「先輩は(割と)ベジタリアンだった」
という事実。


僕は閃いた。
野菜を使って花束をつくってあげれば良いのだ。
美しく、手が凝っていて、しかも食べられる「野菜束」。
思いやりと実用性に長けた、素晴らしいプレゼントではないか!


素晴らしいこの思いつきを、
僕と僕の部活仲間は、何の躊躇もせずに
実行に移すことにした。




卒業式前日、バイト前の午前に、
僕は生まれて初めて、
「スーパーで野菜を買う」という行為を行った。




途中、「なんか1行だけ親しげな注意書き」
みたいなのに心を惑わされそうになったが、
なんとか野菜売り場までたどり着く。


少しでも花束らしく見えるように、菜っ葉系を選んだり
色のある野菜を選んだりする。
アスパラ数本で100円という値段を高いと感じ、
こんなところで主婦の気持ちを少しだけ理解する。


そして卒業式当日。
僕と部活の後輩の女の子が持ち寄った野菜は
以下の通りだ。



セロリ、アスパラ、人参、パプリカ、ブロッコリー。



後輩は、花わさびに春菊、
そしてまさかのニラを持ってきた。
恐ろしいほどに香る、圧倒的存在感のニラ臭。


とりあえずそれらの花(もとい野菜)を、一緒に買ってきた
(皮肉にも透明な)包装紙で包み始める。



20分後には卒業式が始まるというこの状況の中で、
駐輪場で野菜を包む作業をする僕ら演劇部(の中の三人)。
人が来ないように、ただ祈るばかり。


後輩の女の子は華道部もやっている。
そこで僕が、
「よし、ここで華道部の力を見せてやれ!」
と煽ると、

「いや、華道部って別に花束はつくらないんで」
という当たり前の返答が返ってきて、
僕の心を強く締め付けた。


気付けば、もはや式の始まる時間。
後輩は急いで式の会場である体育館へ向かったが、
俺とクラスメイトの友人は面倒なので
式が終わるのを外で待っていることにした。

何というか、この野菜束を持って式場に入る勇気がないのだ。




束にした野菜を持って校舎に入り、
とりあえず学食前の広場に落ち着くことにした。



こちらが完成した野菜束。
何と、千円に満たない野菜で、3つもつくれた。
ええと、何のふるさと宅急便ですか。

ブロッコリーとか、単独でひとつの束になっているあたりが、
何とも微笑ましい。


するとそこに我らが恩師、情報工学科のk教官が現れた。
いつも作業着を着ていて、情報科の教官とは思えないほど
海岸とトランペットの似合いそうな素敵な教官である。
(注:僕だけの主観です)

そんなk教官も今日は、正装で身を固めていた。


さすがに野菜の束を見て驚くk教官。
この場所に来てから側を通る教官全員に異形を見る目で
見られ続けてきた
ことを思えば、至極自然なリアクションである。


カメラを取り出し、
「いやぁ話題性はあるよね」
と笑顔で野菜の束を撮影するk教官。
きっと他の教官仲間との話の種にでもしてくれるのだろう。
k教官が選んだ格助詞が「話題性」ではなく
「話題性」であったことが、何だか哀愁を誘う。


しかしここで緊急事態発生。
何と野菜がしおれてきたのだ。
誰もが予想していた事態だけに、
焦り出す、しかし冷静な僕ら。


するとそこにk教官からの救いの手が!!





わざわざ水、持ってきてくれました。


心なしか、時間とともに元気を取り戻してくるように見える
僕らのふるさと宅急便野菜たち。
この時の教官への感謝の念を、僕らは忘れない。




さあ、そしていよいよ卒業式も終わる時間。
僕らは体育館の前へ急いだ。
途中、スーパーの袋に野菜の束を入れて歩いていたら、
工場棟の窓ガラスに映った自分の姿が
どう見ても買い物帰りのおばさんにしか見えないという
精神的大ダメージがあったけれども、こんなところで
挫けるわけにはいかない。

体育館の前に着きしばらくすると、
5年生の先輩たちが、ぞろぞろと体育館から出てきた。


そしてターゲットの先輩を確認。
いよいよ、この野菜束を渡すときがきた。

今まで色々なことを教わってきた先輩だ。
僕が心から敬愛する先輩だ。
いや、むしろ愛してもいいと思える先輩だ。
(注:先輩は男性です)

部活で演劇の色々な技術を教わったこと、
社会人としての知識やモラルを教わったこと、
一緒に演劇を観に行ったこと、
部活の後に食事をしに行ったこと、
クリスマスの夜に山の上で夜を明かし、
マジ凍死するかと思ったこと
など、
先輩を巡る実に色々な思い出が、蘇る。


さあ、今こそ先輩に渡すときだ!!
「先輩、これ受け取って下さい!!」
スーパーの袋を持って、先輩に近付く俺と友人。


「…いやぁ、なんかお店の人が
緑のばっかり選んじゃったんですけどねー!!」

何故か口から出てきた弁解めいた言葉。
本当に何故だろう、僕らにやましい気持ちなど無いのに。


野菜の束を受け取った先輩は、
僕らを見てこう言った。





「うん、俺… 泣いてもいいのかな」




や、やった!
涙が出るほど喜んでくれたぜ☆!!


以降僕らと先輩のやりとりを、
先輩の顔を出すわけにはいかないので、
僕が(ペイント一発描きで)描いた絵とともに
示したいと思う。













先輩「俺、普通のが良かったんだけど…」






そりゃ、そうだ。





先輩「ていうかこれ、持ちづらいんだけど…」






俺もそう思います。





先輩「てか何? 発案者誰なのこれ」






俺だなんて、言えない。





先輩「…………」





俺「あ、でもホラ先輩、野菜好き
  だったじゃないですか!!」






先輩「いや、生はちょっと…」





生とかそれ以前の問題で
ごめんなさい。









さっき野菜がしおれそうになったなんていうことが、
本質的な問題では無かったということを気付かせてくれる、
「人として当たり前のリアクション」という
今日最大の緊急事態。

そして絶妙なタイミングで
地面にこぼれ落ちる
パプリカ(黄色)。


先輩のご友人は
「アハハ、頭いい~!!」
とか言って、笑ってくれたと言うのに。
(注:僕らの行為が頭悪いということは自覚しています)






仕方が無くなったので、
たまたま通りかかったその先輩のお母様に、
「これ、食べて下さい」と
スーパーの袋に入れた野菜を
渡して帰りました。


(なお、先輩のお母様はとても喜んでくれました。主婦として






先輩、卒業おめでとうございます。
この場を借りて、あの時の非礼をお詫びしたいと思います。


卒業おめでとうの流れから、
何で謝ってるんだろう、俺。